岩手医科大学 先端医療研究センター 中間報告書(各テーマ用)

研究プロジェクト名

悪性脳腫瘍における拡散テンソルおよび拡散強調MRIの応用

研究代表者

別府高明

所属

脳神経外科

共同研究者

西本英明

 

大学院生(脳神経外科)

 

キーワード(日本語)

グリオーマ

拡散テンソルMRI

拡散強調MRI

 

 

 

 

Key Words (English)

Glioma

Diffusion Tensor MRI

Diffusion weighted MRI

 

 

 

 

【背景・目的】

拡散強調MRI (DWI)および拡散テンソルMRI (DTI)は、それぞれ3方向、6方向の傾斜磁場をかけることにより、組織内の水分子の拡散(ブラウン運動)の強さ、方向性を表すことができるMRI sequenceである。DTIによるfractional anisotropy(FA)値は拡散の方向性を定量できる最もすぐれた指標とされる。脳腫瘍の組織内でのFAの意義について今まで検討はなされてこなかった。悪性脳腫瘍の中でも多くを占める悪性グリオーマのFAを測定し、FAの意味するところを検討することは重要である。

また、DWIによる3-dimensional anisotropy contrast iconography (3DAC)は従来、脳内の神経線維走行を3原色で描出できる画像として利用されてきたが、神経線維に沿って容易に浸潤する悪性グリオーマにおける3DAC画像の検討を行うことは非常に有用である。

 

【方法】

グリオーマ27例を対象にDTIによるFA値を術前に測定した。FAは以下の数式で計算される。

 

 

 

 

 

 


 FA 値と手術により摘出し作成した病理標本における腫瘍内組織構築の関係をけんとうした。

 一方、DWIによる3DACで脳内錐体路は赤〜橙色に描出される。片麻痺を伴う膠芽腫19例で術前に3DACを撮像し、腫瘍近傍にある錐体路の色調の変化と術後の麻痺の回復程度の関係を検討した。

【結果】

グリオーマ組織内におけるFA値は、正常白質のFA値より有意に低値であった。グリオーマの組織型(悪性度により4群に別れる)とFA値の関係は、悪性度が増すほどFA値は高値になる傾向を示した。病理標本における腫瘍細胞密度とFA 値、腫瘍血管密度とFA値は高い正の相関をしめした。また膠芽腫に限ってみると、FA値とMIB-1値は正の相関を示した。

膠芽腫における3DACでの錐体路の色調は大きく1)色調に変化なし、2)黒色に変化、3)描出されない、の3つに分類された。腫瘍摘出後の麻痺の回復程度と比較すると、色調に変化ない群の症例は麻痺が術前より回復するが、黒色に変化する群の症例は麻痺の回復を認めなかった。描出できなかった症例では、麻痺が回復するものもあれば回復しないものもあった。

 

【考察と展望】

水分子の拡散は一方向性の走行性の強い神経線維においては、それに直行すると抑制されるので沿って拡散する。FA値は1方向性の走行が強い神経線維においてはかぎりなく1.0に近くなる(1)。グリオーマが発生・成長する過程で同部の白質神経線維は破壊される(2)。よってグリオーマにおけるFAは正常白質のFAに比較し有意に低値であったと推測された。一方、グリオーマにおけるFAは細胞密度、血管密度と相関し、結果として悪性度が上がるに従って高値をしめした。以上から、グリオーマにおけるFAは腫瘍による神経線維の破壊による拡散の促進と、腫瘍内の組織構築(細胞密度、血管密度)による拡散の抑制の2つのバランスによって成り立つと推測できた1)。細胞密度は細胞増殖能と関係があることから、膠芽腫においてはFAMIB-1が相関した結果は矛盾しないと思われた2)。一連の検討では細胞密度と血管密度の2つだけ検討したが、その他の組織構築因子とFAの関係を今後検討する必要がある。たとえば悪性グリオーマにおけるspindle cellpeseudopalisadingに認めるようなcell alignment により拡散が抑制されFAが上昇する可能性がある3)

悪性グリオーマの代表である膠芽腫は悪性度が高く予後不良であるが、腫瘍により片麻痺を伴う場合、患者はQOLが大きく損なわれることから、腫瘍を摘出した後に麻痺が改善するか否かは大きな問題である。3DACで腫瘍近傍の錐体路が色調の変化を示さなかった症例は術後に片麻痺が改善した結果は、色調の変化の有無が錐体路への腫瘍浸潤の有無を示している可能性が示唆された。錐体路が黒色変化した症例は全例、術後に麻痺の増悪をみており、錐体路への強い細胞浸潤による拡散の強い抑制が3DACでの黒色の変化をおこしたと推測された。これらの結果は術前において、術後の麻痺の改善を推測できる大きな手がかりとなり臨床上、非常に有用である4)

 

≪参考論文≫

(1)     Witwer BP, et al: J Neurosurg 97: 568-575, 2002

(2)     Yasargil MG: Microneurosurgery IV A (In 4 volumes). Georg Thieme, Stuttgart / New York Verlag (for distribution in Japan: Nankodo Company Ltd. Tokyo), 1993, p127

 

 

 

≪発表業績≫

1) Beppu T, et al: J Neuro-Oncol, 63: 109-116, 2003

2) Beppu T, et al: Surgical Neurology  63: 56-61, 2005

3) Misaki T,  Beppu T, et al: J Neuro-Oncol 70: 343-348, 2004

4) Beppu T, et al.J Neuro-Oncol 73:137-144, 2005