<スケジュールに照らした各年度ごとの進捗状況及び達成度>

(1) トランスレーショナルリサーチの実践的研究課題

2. MUC-1およびWT1を標的としたペプチド癌ワクチン・樹状細胞・CTLの開発研究と実践

・1年目

 腎細胞癌に対するMUC-1ペプチド投与における基礎的研究I(in vitro)

腎細胞癌(RCC)細胞株としてA498(HLA-A2+)を用いた。この細胞株はHLA-A2拘束性にMUC-1を発現している。ヒト末梢血(HLA-A2+)から単核球をとりだし、付着細胞を得た。GM-CSFIL-4TNF-aとともに培養後、樹状細胞を得、MUC-1ペプチドで刺激した。同様に単核球をMUC-1ペプチド添加自己樹状細胞で繰り返し刺激し、HLA-A2+拘束性CTLを樹立した。In vitroA498HLA-A2+拘束性CTLとを混合培養し、A498の生存率を検討した結果、A498HLA-A2+拘束性CTLによってのみ細胞障害を受け、かつHLA-A2+拘束性CTLHLA-A2を持たないRCC細胞株には細胞障害を及ぼさないことが明らかとなった。これらの結果は、MUC-1が癌ペプチドとして使用できる可能性を強く示唆している。

・2年目

腎細胞癌に対するMUC-1ペプチド投与における基礎的研究II(in vivo)

 A498SCIDマウスの皮下に植え付け担癌マウスを作製した。HLA-A2+拘束性CTLを1週に1度投与し、腫瘍の大きさと生存率とを検討した。担癌マウスにコントロールとしてHLA-A2+リンパ球を投与した群では25日、63日に全匹死亡したのに対し、HLA-A2+拘束性CTLを投与した群では42日に1匹死亡したものの、90日まで残りは生存した。腫瘍の大きさもHLA-A2+拘束性CTL投与群の方が有意に減少していた。これらの結果は、MUC-1が癌ペプチドとして使用できる可能性を強く示唆している。

・3年目(現在まで)

 WT1を標的としたペプチド癌ワクチン

 過去2年間の実験結果をベースに大阪大学の杉山治夫教授との共同研究として、WT1を標的としたペプチド癌ワクチン投与を、血液悪性腫瘍、固形癌として肺癌、食道癌、腎癌の患者を対象に行っている(倫理委員会承認済み)。現在までに急性骨髄性白血病の患者1例のみであるが、今後は症例を拡大していく予定である。

<特に優れている点>

 12年目では、腎細胞癌に対する免疫療法の有効性をマウスを用いて基礎的検討を行った。腎細胞癌は抗癌剤も放射線療法も効果のない特殊な癌である。臨床的に転移のある腎細胞癌に非破壊的同種骨髄細胞移植が行われており、30%前後の有効率を示している。この治療法はまさにgraft versusu tomor (GVT)を利用した治療法であるので、SCID担癌マウスを用いて、癌ペプチド療法の可能性を検討した。このような検討はほとんど行われておらず、3年目のWT1を標的としたペプチド癌ワクチンの臨床的応用につながったと考えている。臨床的にペプチド癌ワクチンの投与は日本でもわずかな施設で行われているのが現状であり、今後は増加することも期待されている。

 

<研究成果の副次的効果(実用化や特許の申請など研究成果の活用の見通しを含む)>

<今後の研究方針>

 

<問題点とその克服方法>

 WTペプチド癌ワクチン投与症例を拡大し、全国共同治験のデータとして有効性・安全性を確認していかねばならない

 

<今後、期待される研究成果>

 癌の新たな治療法としてその有効性・安全性が期待される。

 

 

 

<スケジュールに照らした各年度ごとの進捗状況及び達成度>

(2) トランスレー書なるリサーチの実践的研究課題

1. 固形癌に対する骨髄非破壊的同種骨髄移植の実践

・1年目

腎細胞癌の肺転移例を対象に骨髄非破壊的同種骨髄移植を2例施行したことをふまえて

第3例目の骨髄非破壊的同種骨髄移植を行なった。患者は59才の男性。2年前に、腎細胞癌(clear cell type) と診断され、右側腎摘出術を施行した。術後所見で根治的と判断され、外来で手術後療法としてINFαの投与を受けていた。翌年の2月、両側の肺に転移の所見を認め、IL-2の投与を開始したものの、肺病変の改善は認めなかったため、実弟かをドナーとして骨髄非破壊的同種骨髄移植を行なった

・2年目

 血液悪性腫瘍を対象に骨髄非破壊的同種骨髄移植を多く行なったものの、腎細胞癌をはじめとする固形癌の移植対象者はなかった。上述例の経過を外来感雑している。

・3年目(現在まで)

 2年目と同様である。

<特に優れている点>

 当科で行なった肺転移の認められる腎細胞癌の骨髄非破壊的同種骨髄移植3例のうち、全ての症例で、一時、肺転移巣の縮小が認められ、生存期間の延長が明らかとなった。2例は最終的に脳転移をおこし死亡したものの、3例目は1年目で肺転移巣は全て消失した。2年数ヶ月たった現在も、無病で生存している。日本で行なわれた肺転移の認められる腎細胞癌の骨髄非破壊的同種骨髄移植は30例に及ぶが、第3例目のように治癒した症例は報告されておらず、骨髄非破壊的同種骨髄移植によって治癒した日本で最初の症例である。

<問題点とその克服方法>

 骨髄非破壊的同種骨髄移植が有効であると考えられた固形癌は腎細胞癌、悪性黒色腫、大腸癌、卵巣癌、肺癌、膵癌などであり、実際に骨髄非破壊的同種骨髄移植が施行された報告が認められる。しかしながら、腎細胞癌を除いては、免疫系の入れ替えによるgraft versus tomor(GVT)の効果は認められているものの、著名な生存期間の延長をもたらすようなものではないことも明らかとなっている。

<研究成果の副次的効果(実用化や特許の申請など研究成果の活用の見通しを含む)>

 

<今後の研究方針>

 腎細胞癌は抗癌剤が有効でない癌腫であり、根治的治療は外科的切除だけである。再発例にはINFαIL-2の投与がなされているものの、その有効率は1020%であることから、これらの治療法を行なっても奏功しない転移を認める腎細胞癌症例に対しては積極的に骨髄非破壊的同種骨髄移植を行なうことが推奨されると考えられる。施行時期については、腫瘍量の少ないときに行なうのがベターだと思われるが、既存の

INFαIL-2投与療法を少なくとも凌駕する成績でなければならない。症例を集積して、治療予後の因子の検討も含めて行ないたい。

<今後、期待される研究成果>

 免疫抑制剤をうまく減量することによって、GVTを引き起こし、その奏功率を50%に程度までひきあげることが可能であれば、既存に治療法に対して遜色のない治療法と断定できるのではないうかと考えられる。