岩手医科大学 先端医療研究センター 中間報告書(各テーマ用)

研究プロジェクト名

切迫早産における予後因子マーカーの検索

研究代表者

利部正裕

所属

産婦人科学講座

共同研究者

杉山 徹

福島 明宗

室月 淳

庄子 忠宏

金杉 知宣

前沢 千早

 

産婦人科学講座

産婦人科学講座

産婦人科学講座

産婦人科学講座

産婦人科学講座

病理学第2講座

 

キーワード(日本語)

切迫早産

サイトカイン

 

 

 

 

 

Key Words (English)

preterm delivery

cytokine

 

 

 

 

【背景・目的】

早産は児の生命を危険にさらし、あるいは脳性麻痺などの後遺症を引き起こし、かつ完全なる予防・治療が不可能な、きわめて重要な疾患である。当院には国より指定された周産母子医療センターがあり、切迫早産患者が岩手県内はもちろんのこと、遠く県外からも切迫早産症例の母体搬送を受け入れている。近年、わが国でも早産は増加傾向にあり、早期治療をするためにも切迫早産から早産にいたる予後マーカーの検索は急務である。我々は以前より切迫早産の予後因子マーカーの検索を行ってきた。その中でHeat shock protein 70(HSP70) について末梢血および膣分泌液を用いて計測を行ってきた。HPS70は、治療抵抗性の切迫早産において、治療可能だった切迫早産と比べ高値を示すことが明らかになった(文献1)。しかし、頚管粘液検査は患者に対する侵襲があり、また手技によっての差がある。そのため、低侵襲な採血によるマーカーの検索が必要であり、今回我々はサイトカインを用いて採血検査による早産マーカーとして有用か検討を行った。

 

【方法】

症例は切迫早産が21例(早産12例、満期産9例)、正常妊娠経過例6例、非妊娠成人女性3例の30例を対象とした。いずれの症例も十分なインフォームドコンセントのもと、書面にて同意を得た症例である。

切迫早産例はすべて当院に入院時に採取した血清を使用。その他は妊婦検診時に外来にて採取した血清を使用した。サイトカインの計測はBio-Plexサスペンションアレイシステム(BIO-RAD社)を使用し17種類のサイトカインを同時計測した。

 

【結果】

IL-1β、IL-2、IL-6IL-8MCP-1が正常群や満期産群に比べ有意に早産群に上昇を認めたが、その他のサイトカインには有意の上昇は認められなかった。また、IL-4、 IL-12、 IL-13、INF-γは計測感度以下であった。

 

【考察と展望】

早産における子宮頚管熟化や子宮収縮には、炎症や進展刺激・出血により遊走してきた好中球やマクロファージから放出されたさまざまのサイトカインによって引き起こされていると現在のところ考えられている。そのため、以前より頚管粘液を用いたサイトカインの計測は行われてきた。今回我々の検討の結果は、頚管粘液検査の結果とほぼ同様の結果が得られた。これは、子宮局所で起こっている変化が全身にも及んでいることが示唆された。また先にも述べたとおり、子宮頚管粘液検査は患者に侵襲があり、さらに採取する人間により差が大きく出る検査である。これらのことを踏まえると、より低侵襲で人為的誤差の小さい採血検査で行えることは理想的である。今回の我々の結果より、今後採血によるサイトカイン計測が切迫早産の予後因子マーカーとして有用であることが示唆された。今後はさらに症例数を増やして検討を行い、約2~3種類のサイトカインに絞り込む必要があるであろう。

 

≪参考論文≫

(1)     Fukshima A, et.al, The Journal of Obstetrics and Gynecology research, 30(1), 72-77, 2005

≪発表業績≫

1)      庄子忠宏、他:早産予知マーカーとしての血中IL-1βおよびIL-6濃度測定に関する検討 日本周産期新生児学会雑誌 41(1):47-53, 2005.