岩手医科大学 先端医療研究センター 中間報告書(各テーマ用)

研究プロジェクト名 抗原提示細胞系におけるニコチン受容体の発現とその機能

研究代表者 近藤ゆき子

所属 医学部・薬理学

共同研究者 平英一

キーワード(日本語) ニコチン受容体、樹状細胞、コリン作動系抗炎症経路

Key Words (English) Nicotinic receptor, dendritic cells, colinergic anti-inflammatory pathway

【背景・目的】

ニコチン性アセチルコリン受容体は、本来は中枢神経系、自律神経系や神経筋接合部に存在し、主に神経伝達に関与すること、存在部位により受容体サブタイプの分布が異なることなどが知られている。近年、免疫系において、マクロファージ上に存在するα7型ニコチン受容体が副交感神経刺激を介した炎症反応抑制効果に関与していることが明らかになり、コリン作動系抗炎症経路について多くの報告がなされている。樹状細胞は主に単球から分化し、抗原提示細胞として自然免疫から獲得免疫への移行に関わり、免疫系において重要な役割を担っている。この樹状細胞にもニコチン受容体の存在が報告されており、コリン作動性抗炎症経路における樹状細胞上のニコチン受容体の機能を明らかにする。

【方法】

抗原提示細胞系のモデル細胞としてp53欠損マウス骨髄由来の培養細胞であるJawsII細胞を用いた。フローサイトメトリーではAlexa488で標識したα-bungarotoxin(以下BTXと略、ニコチン受容体に特異的に結合するヘビ毒の一つ)を用いてニコチン受容体を検出した。ニコチン受容体の構成サブユニットのα2~9、β2~4については real-time RT-PCR を用いて m-RNA の発現量の変化を検出した。また、細胞が合成分泌するサイトカインの変化をサスペンションアレイシステムにて定量した。細胞の成熟化刺激にはLPSTNF-αを用いた。

【結果】

フローサイトメトリーにより蛍光標識したBTXを用いてJawsII細胞上にニコチン受容体を検出した。またこの細胞の表面に発現しているCD抗原は未熟な樹状細胞のパターンを示した。この細胞をLPSまたはTNF-αで細胞成熟化刺激をした場合、ニコチン受容体は細胞表面から消失し、CD抗原については前成熟段階の樹状細胞のパターンを示した。これらニコチン受容体と細胞表面抗原の発現変化はニコチンの添加による影響を全く受けなかった。細胞成熟化に伴うニコチン受容体の細胞表面からの消失において、ニコチン受容体を構成するサブユニットであるα2~9とβ2~4m-RNA発現量の変化を real-time RT-PCR で解析したところ、発現量が減少したサブユニットは認められなかった。次に、細胞機能としてのサイトカインの合成分泌について検討したところ、TNF-α、IL-1aIL-1bIL-6の分泌が細胞成熟化刺激(LPS刺激)により大きく増加した。この他にIL-3IL-10IFN-γの各分泌量は殆ど変化しなかった。また、この時同時にニコチンを添加してもこれらのサイトカイン分泌は全く影響を受けなかった。JawsII細胞において、ニコチン刺激は細胞成熟化に伴うその細胞表面抗原の変化とサイトカイン分泌の変化に対して影響は全くなかった。細胞表面に発現しているニコチン受容体が細胞成熟化により消失するメカニズムはまだ明らかではない。

【考察と展望】

外傷や感染症、虚血性変化などにおいて、活性化された免疫系の細胞が機能し、その結果個体にとって適切な炎症反応の過程を経て回復へと向かう。しかし、この炎症反応を引き起こす免疫系の細胞が過剰に反応し過ぎると、逆により重篤な病態となることがあり、ショックや多臓器不全、さらには死亡することもあり得る。近年、この免疫系細胞、特にマクロファージにおけるニコチン受容体を介したコリン作動系がマクロファージの過剰な反応を制御し、炎症反応の調節に関与していることが明らかになった。敗血症モデル動物において、迷走神経刺激により末梢に存在するマクロファージ上のα7ニコチン受容体を介してマクロファージからのTNF-α分泌が抑制され、その結果過剰な炎症反応が制御され個体は回復に向かうが、α7サブユニットのノックアウトマウスにおいては迷走神経刺激でTNF-α分泌が抑制されず、過剰な炎症反応を引き起こすことが報告された。今回の我々の研究は、抗原提示系の細胞ではコリン作動系抗炎症経路はどのように関与しているかを明らかにするのが目的であった。これまでの結果からは、未熟な樹状細胞の特徴を持つJawsII細胞では細胞の成熟化刺激による活性化により、ニコチン受容体は細胞表面から消失すること、また、他の細胞表面抗原の発現パターンやサイトカイン分泌はニコチン刺激による影響を全く受けないことから、樹状細胞はコリン作動系の制御を受けなくなることが示唆された。このことは、樹状細胞が自然免疫から獲得免疫への過程に必須なことから、合目的的であると考えられた。今後はニコチン受容体の細胞表面からの消失過程についてさらに検討を加える必要がある。

参考論文

(1)        Gallowitsch-Puerta M and Tracey KJ Ann N Y Acad Sci 1062:209-219(2005)

(2)        Wang H et al Nature 421:384-388(2003)

(3)        Borovikowa LV et al Nature 405:458-462(2000)