岩手医科大学 先端医療研究センター 中間報告書(各テーマ用)

研究プロジェクト名

カルボニル化タンパクを指標とした個体老化の研究

研究代表者

青木康博

所属

岩手医科大学法医学講座

共同研究者

熊谷章子

 

 

 

キーワード(日本語)

酸化ストレス

カルボニル化タンパク

次元電気泳動

個人識別

硝子体液

フリーラジカル

 

Key Words (English)

Oxidative stress

Protein carbonyls

Two-dimensional gel electrophoresis

Identification

Vitreous humors

Free radical

 

【背景・目的】

酸化損傷タンパクは,加齢による抗酸化作用の減退,代謝の低下によって活性酸素種(Reactive Oxygen Species : ROS)が効果的に排泄されなくなると蓄積する.なかでもアルギニン,リジンなどのアミノ酸残基が,ROSによって酸化されて生じたカルボニル基は反応性が高く,タンパク質と非酵素的に結合し,その機能と構造を変化させることによって高分子のタンパク質凝集体となり,タンパク質のもつ本来の機能が失われて傷害を引き起こすことがよく知られている1).われわれはその酸化損傷のマーカーであるカルボニル化タンパクをヒト体液から検出し,加齢に伴う量的変化について検討している.

 

【方法】

剖検事例から採取された硝子体液に2,4-dinitrophenylhydrazineを反応させhydrazoneを形成し, SDSポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE) 2次元電気泳動(2-DE)での分離を行った.同条件で電気泳動を2回行い,1枚のゲルはCBB染色または銀染色,他の 1枚のゲルはPVDF膜上にウェスタンブロッティングを行い抗DNP抗体を反応させ,次にHRP標識2次抗体を反応させカルボニル化タンパクを検出した2,3).その発色スポットと同部位の染色ゲルのスポットを切り出し, MALDI-TOF MSにて質量分析を行い,タンパクを同定した.

 

 

【結果】

SDS-PAGE後の免疫染色像において,40歳以上で120kDa付近にカルボニル化タンパクのバンドを認めた.2-DE後の免疫染色像では, 40歳代で15~25kDaの低分子にいくつかの発色が認められ, 加齢に伴い70~100kDa前後の広い領域にも著明な発色が認められた.免疫染色像の低分子量領域の特徴的なスポットと同部位のゲルスポットについてMALDI-TOFによるタンパク同定を行ったところ,インターロイキン1レセプタータイプ1(IL-1R1),プロテインキナーゼC-LIKE2(PKC-LIKE2)UDPグルクロノシルトランスフェラーゼ1-2(UDPGT)2’,3’-サイクリックヌクレオチド3‘-フォスフォジエステラーゼ(CNP) の存在が推定された.

 

【考察と展望】

硝子体液は血液等と比較し死後変化の影響を受けにくいとされており,高度の焼損死体からも採取が可能であることが多く,法医学的試料としてよく利用される.また生理的老化現象による成分変化が起こることも知られている4) 活性酸素により修飾されたタンパク内のカルボニル化合物に関する研究は数多くあるが,主として疾病との関係が注目されており,in vitroの実験ではカルボニル化の持つ病態生理学的意義についても解明されつつある5).しかし法医学領域での年齢推定を目的とし,加齢に伴う生理的変化としてタンパクのカルボニル化に着目した研究は国内外とも皆無に等しい.今後,ヒト体液(血清,硝子体液等)中のカルボニル化タンパクの検出・同定のデータを蓄積し,加齢に伴う量的変化を明らかにし,加齢とともに増加するカルボニル化タンパクを特定することにより,法医学的に有用性の高い年齢推定への応用を検討する.

 

 

≪参考論文≫

(1)     Kim K. et al. J. Biol. Chem. 260:464-478, 1985

(2)     Tezel G. et al. IOVS Vol.46, No.9:3177-3187, 2005

(3)     Castegna A. et al. J. Neurochem. 82:1524-1532, 2002

(4)     Favre M. et al. Ophthalmologica 132:87, 1956

(5)     Senti T. et al. Nutrition Research 23:1199-1210, 2003