岩手医科大学 先端医療研究センター 中間報告書(各テーマ用)
プロジェクトカテゴリー (該当するものを選んでください) |
老年疾患克服に向けた探索的医療プロジェクト 1. 老年疾患の遺伝子要因と環境要因の交絡に関する疫学研究 2. 老年疾患に対する新規分子標的治療薬/細胞療法の開発に関するトランスレーショナルリサーチ 3. 患者保護の立場に立った先端医療専修医の育成カリキュラムプランの策定 |
研究プロジェクト名 |
動脈硬化症における自然免疫応答関連遺伝子の遺伝子多型および炎症性サイトカインの発現解析調査 |
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研究代表者 |
中 村 元 行 |
所属 |
内科学第二講座・教 授 |
共同研究者 |
佐 藤 衛 赤 津 智 也 石 川 有 南 仁 貴 伊 藤 智 範 前 沢 千 早 田 代 敦 那 須 雅 孝 大 澤 正 樹 板 井 一 好 坂 田 清 美 増 田 友 之 |
所属 |
内科学第二講座・講 師 内科学第二講座・助 手 内科学第二講座・大学院 内科学第二講座・大学院 内科学第二講座・講 師 病理学第二講座・助教授 内科学第二講座・講 師 内科学第二講座・助教授 公衆衛生学講座・助 手 公衆衛生学講座・助教授 公衆衛生学講座・教 授 病理学第二講座・教 授 |
キーワード(日本語)
冠動脈疾患 |
血管内皮前駆細胞 |
サイトカイン/ケモカイン類 |
Key Words (English)
Coronary heart disease |
Endothelial progenitor cell |
Cytokine / chemokine |
Immune response |
Telomere dysfunction |
Toll like receptor |
【背景・目的】
冠動脈疾患は、さまざまな環境因子の暴露による自然免疫応答の亢進とサイトカイン/ケモカイン類の産生が血管内皮障害を引き起こし、さらに、冠動脈プラーク形成・破綻により発症すると考えられている。Toll様受容体(TLR)は、自然免疫応答の主役を演じる膜タンパク質であり、細胞内シグナル伝達因子を活性化し、その下流シグナル分子 (サイトカインやケモカイン類) の産生を誘導する。近年、冠動脈疾患の発症メカニズムとして、血管内皮細胞のテロメア機能不全に基づく血管内皮障害が注目されている。とくに、血管内皮前駆細胞 (EPCs)のテロメア機能不全が、血管内皮障害の程度を反映していると考えられている。
本研究では、1)冠動脈疾患の免疫担当細胞 (単球/マクロファージ) でのTLRシグナルによる炎症性サイトカイン誘導能を明らかにする。2)冠動脈疾患のEPCsでのテロメア機能障害の程度を明らかにする。3)In vitroモデルを作成し、TLR4シグナル伝達機構を介した血管内皮障害のメカニズムを検証する。
【方法】
ACC/AHAガイドライン(J Am Coll Cardiol. 2002;40:1366-74)により診断された急性心筋梗塞症(AMI) 群(100例)、安定狭心症(AP) 群(50例)を対象とする。冠動脈造影で有意狭窄を有さない症例(50例)を対照群とする。
1. サンプルの抽出:末梢血液より末梢血単核細胞(PBMC)および血清を採取する。末梢血単核細胞から単球/マクロファージを分離する。
2. TLRシグナルの解析:定量的real-time PCR法およびフロ−サイトメ−タ−により、TLR4およびその調節因子の発現を定量測定する。
3. TLR下流シグナルの解析:BioPlexにより、血清中の各種サイトカイン類およびケモカイン類の発現を網羅的に定量測定する。
4. EPC培養:上記のPBMCをVEGF、IGF、EGF刺激下で、EPCへ発現誘導し培養する。
5. EPCでのテロメア機能の解析: Flow-FISH法によりテロメア長を測定する。定量的real-time PCR法により、EPCsでのテロメア調節因子(TERT, TRF2, Chk2, P53 mRNA)の発現を定量測定する。
6. 臨床データーの収集と予後の追跡調査:冠動脈疾患、脳血管疾患、心不全による入院および心血管疾患による死亡を心血管イベントと定義し、これらのイベント発生を追跡調査する。
【結果】
1. TLRシグナルの解析: AMI群の末梢単球でのTLR4 mRNAおよびその蛋白の発現は、対照群と比較し高値を示した。また、TLR4の主なリガンドと考えられているHeat shock protein 70 (HSP70)は、AMI群の血清中で発現し、その発現はTLR4の発現と正の相関を認めた。
2. TLR下流シグナルの解析: AMI群のPBMCでは、腫瘍壊死因子-α変換酵素 (TACE) を介した腫瘍壊死因子-α (TNF-α) の産生能が亢進し、その産生能の亢進は、AMI発症第14病日まで持続していた。また、血清中サイトカイン類およびケイモカイン類のうちIL-2, IL-6, IL-8, IL-10, GM-CSFおよび TNF-αの発現がAMI群で亢進し、IL-6, GM-CSFおよびTNF-αの発現は、TLR4の発現と正の相関を認めた。
3. In vitroモデル: HSP70、LPSとPMA刺激下で単球培養を行い、上記1、2の結果の検証を行った。また、eplerenone (抗アルドステロン受容体拮抗薬)が、TLR下流シグナルを阻害することを立証した。
4. 臨床データーとの比較:AMIの単球でのTLR4シグナルの亢進は、AMIの重症度および心合併症(ポンプ失調、致死的不整脈、再梗塞、心臓死)の発生と関連していた。
5. EPCでのテロメア機能の解析:対照群、AP群、AMI群の順にEPC数の減少、EPCのテロメア長の短縮を認めた。また、テロメア調節因子(TERT, TRF2)の発現は、対照群、AP群、AMI群の順に低値を示した。
【考察と展望】
AMIでは、免疫応答細胞での自然免疫応答の亢進が、AMIの重症度や生命予後に関連していると考えられている。そこで、心筋梗塞症での末梢単核細胞でのtoll様受容体シグナルの活性化に着目し研究した。AMIの末梢単球では、HSP70をリガンドとするTLR4シグナルが活性化し、さらに、TLR4下流シグナル(サイトカイン・ケモカイン類の産生) が亢進していた。また、単球培養モデルを作成し、これらの結果をin vitroに検証することが可能であった。また、TLR下流シグナルを阻害薬としてのeplerenoneの効果を立証した。臨床データーとの比較では、TLR4シグナルの活性化と心筋梗塞症の重症度および心合併症(ポンプ失調、致死的不整脈、心臓死)の発生と関連していた。すなわち、免疫担当細胞の活性化は、心筋梗塞症の重症度および心合併症の発生に関与をしていることを示唆している。
AMI群、AP群、対照群でのEPC培養およびテロメア機能の解析に成功した。AMI群でのテロメア長の短縮およびテロメア調節因子の発現の減少は、AMIの血管内皮細胞の寿命の短縮すなわち血管内皮障害を示唆している。
今後は、冠動脈疾患での免疫担当細胞のTLR4シグナルとEPCのテロメア機能との関連性を探求する。また、心血管イベント発生を追跡調査し、上記の結果と合わせて検討する。
≪参考論文≫
(1) Satoh M, et al. Eur J Heart Fail. 2006 May 19 [Epub ahead of print]
(2) Satoh M, et al. Heart 92: 979-980, 2006
(3) Satoh M, et al. Int J Cardiol 109:226-234, 2006
(4) Shimoda Y, et al. Clin Sci (Lond) 108:339-347, 2005
≪発表業績≫
(5) Shimoda Y, Satoh M, Ishikawa Y, Minami Y, Nakamura M: Activated tumor necrosis factor alpha shedding process is associated with in-hospital complications in patients with acute myocardial infarction. 2005, November, Dallas.