肝線維症治療戦略における標的分子の探索
【目的】肝臓は物質の代謝・解毒に中心的な役割を担っており,生体にとって欠くことのできない実質臓器である.本邦では肝炎ウイルスの汚染率が高く,慢性肝炎,肝硬変を経て肝癌あるいは肝不全で死亡する例が多い.肝炎・肝硬変は肝線維症と総称され,これらに対する有効な治療法の開発は社会的急務となっている.
我々は,肝線維症治療戦略において以下の2つの点を大きな標的機構と考えている.
@慢性炎症によって頻繁に繰り返される壊死・再生の結果生じる,肝細胞分裂寿命の短縮の克服
A肝血流阻害の最大の要因となりうる肝線維化の克服
本研究では,肝線維症の新たな分子標的治療法の開発を目的に,肝細胞の分裂寿命の延長に関する実験的研究と,肝の線維化に中心的役割を担う肝星細胞(hepatic stellate cell; HSC)の活性化抑制に関する分子機構の同定を行った.
【方法】@肝細胞の分裂寿命の延長に関する実験:hTERT
(human telomerase reverse transcriptase)のプロモーター領域にestrogen
response elementが存在することに着目し,エストロゲンによる肝細胞の分裂寿命に関する実験をin vitro, in vivoで行った.AHSCの活性化抑制作用を持つ,trichostatin A(TSA)および interferon-γ(IFN-γ)の活性化抑制機構の同定を目指し,プロテオーム解析を行った.【結果】1.エストロゲンのhTERTに対する影響:@エストロゲンは,肝初代培養細胞においてhTERT遺伝子のプロモーター領域を刺激し転写活性を上昇させることで,テロメラーゼ活性を上昇させた.Aエストロゲン添加による長期継代培養では,テロメア長の短縮を抑制可能であった.B四塩化炭素肝硬変モデルラットでも,エストロゲンの投与により,肝細胞のテロメア長の短縮抑制が可能であった.2.HSCの活性化抑制薬剤によるプロテオーム解析:@TSA,IFN-γによる線維化関連分子の分泌抑制が認められた.A新たにTSA,IFN-γには脂肪酸代謝系の関連酵素に影響を与えることが明らかとなり,HSCの本来の機能であるfat storing cellとしての形質回復にも役立つことが明らかとなった.BIFN-γにはTNF-alpha converting
enzyme (TACE/ADAM17)の発現抑制を介したHSC活性化抑制作用があることを明らかにした.【結語】肝線維症の分子標的治療薬として,肝細胞の分裂寿命の延長には外因性のエストロゲンが,肝線維化の抑制にはTSA,IFN-γが有効である可能性が示唆された.
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