岩手医科大学 先端医療研究センター 中間報告書(各テーマ用)
研究プロジェクト名 |
急性骨髄性白血病ならびに骨髄異形成症候群(MDS)における新規予後因子の探索と治療最適化の研究 |
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研究代表者 |
鈴木 啓二朗 |
所属 |
先端医療センター |
共同研究者 |
石田 陽治 |
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血液内科 |
キーワード(日本語)
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Key Words (English)
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【背景・目的】
Cytarabine(Ara-C)などのnucleotide analogue(NA)を含む多剤併用療法の導入により,ハイリスク骨髄異形成症候群(MDS)の治療成績は向上しつつあるが,治療成績は十分なものとはいえない.Ara-Cは細胞内に取り込まれ,代謝され後に抗腫瘍効果を示す.抗腫瘍効果を示す活性体は,細胞内5’-nucleotidase (5’-NT)とdeoxycytidine kinase (dCK)により細胞内濃度が左右されると考えられている.近年,これらの発現の差異が急性骨髄性白血病(AML)の予後に関連すると報告されている(1-3).これらのことよりMDSにおいても,5’-NTとdCKの発現の差異が予後に関連する可能性がある.ハイリスクMDSの新たな予後因子ならびに治療最適化を探索する一環として,ハイリスクMDS症例の骨髄単核球細胞の5’-NT mRNAとdCK mRNAをreal-time PCR法で測定し,予後ならびに治療効果について検討した.
【方法】
平成8年から平成16年までに岩手医科大学でハイリスクMDS(RAEB,RAEB-t)と診断された22例を対象とした.診断時に採取・冷凍保存された各症例の骨髄単核球より,Trizol試薬(Invitrogen)を用いてtotal RNAを抽出した.0.25μgのtotal RNAを用いてcDNAを作成した.作成したcDNAを用い, LightCyclerを用いて,hybridization probe法により5’-NT mRNA,dCK mRNAならびに内部コントロールであるβ-actin mRNAの測定を行った.各症例における5’-NT mRNAとdCK mRNAの発現量はβ-actin mRNAとの相対発現量で表した.またコントロールは12例の健常人ボランティアの骨髄単核球を用いた.5’-NTならびにdCKの発現量により症例を高発現群と低発現群に分け,全生存期間ならびに化学療法開始後からの生存期間の生存曲線をKaplan-Meier法で算出し,log-rank法で比較検討した.またそれぞれの群間の臨床データも比較し,予後に与える影響を検討した.
【結果】
22例 (男女比1.66,年齢66.4±7.9歳)のハイリスクMDS群における5’-NT発現量は平均値1.56±1.61,中央値1.36 (0.77-6.77)で,対照 (12例,平均値0.23±0.06,中央値0.67 (0.17-0.34))と比べ有意に高かった (p<0.01).またハイリスクMDS群におけるdCK発現量は対照と比べ有意な差はみられなかった.Ara-Cを含む化学療法を受けた症例 (n=15)の全生存期間(OS)の中央値は16.5ヶ月(2.0-91.0).5’-NT発現高発現群 (³中央値, 8例)のOSは22.0ヶ月,低発現群 (7例)は15ヶ月で,5’-NT高発現群で有意に短かった(p<0.01).また治療開始からの生存期間(PCS)の中央値は14.0ヶ月で,5’-NT高発現群で10ヶ月,低発現群では16ヶ月と高発現群でOS同様に有意に短かった(p=0.012).dCKの発現は生存期間に影響はなかった.5’-NTならびにdCKの高発現群と低発現群間における臨床上の差異はなかった.
【考察と展望】
ハイリスクMDSに対しAra-Cをkey drugとする多剤併用療法が導入され,それらの有効性が示されているものの,未だに治療成績は満足すべきものでない.現在,新たな予後因子の同定と新たな治療戦略が待たれているところである.
Ara-Cは細胞膜にあるnucleotide transporterを経て細胞内に至り,cytidine deaminase(CDD)により不活性化をうけAra-Uとなるが,一部はdCKによりリン酸化を受け,抗腫瘍効果を示す活性体であるAra-CTPとなる.またリン酸化を受けた活性体は5'-NTにより脱リン酸化を受ける.両酵素の均衡により細胞内のAra-CTP濃度は調節されていると考えられている.近年,白血病細胞におけるAra-CTPの細胞内濃度と治療反応性ならびに予後との関連が示されている.これまでにAML症例の初発時白血病細胞における5’-NTの発現量が高い症例において,またdCKの発現が低い症例において,予後が不良であると報告されている(1-3).In vitroによる検討でも5’-NTの発現が高い,もしくはdCKの発現が低い細胞ではAra-Cに対する耐性がみられると報告されている.しかしdCK活性と予後との関連が有意ではないとする報告もあり,更なる検討が必要と思われる.これまでのところ,MDS症例における5’-NTならびにdCKの発現を検討した報告はない.今回我々はハイリスクMDS症例骨髄細胞における5’-NT とdCK mRNAをrt-PCRで検討した.ハイリスクMDS症例群では5’-NT mRNAの発現がコントロールに比べ有意に高く,さらに化学療法を受けた5’-NT高発現群は低発現群と比べ,生存期間が有意に短いことを明らかとした.検討数が少なく,更なる検討の余地はあるものの,今回の検討により5’-NTの発現が予後と関連する可能性が示唆された.dCKに関しては,症例間で発現のばらつきをみたものの,コントロールとの明らかな発現の差は見られず,また生存期間への影響も明らかにすることが出来なかった.今後,症例数を増やし,5’-NTやdCK以外のAra-C代謝に関連するCDDやnucleotide transporterの発現も検討することが必要である.これらの検討は,十分な細胞内Ara-CTP濃度を得るための治療最適化,オーダーメード治療開発の糸口になると思われる.
≪参考論文≫
(1) Galmarini CM et al. Blood 98: 1922-6, 2001.
(2) Galmarini CM et al. Leu-kemia 15: 875-90, 2001.
(3) Galmarini CM et al. Br J Haematol 122: 53-60, 2003.
≪発表業績≫
1) ハイリスク骨髄異形成症候群(MDS)におけるAra-C代謝関連酵素の発現の検討(第二報) 臨床血液 46: 831, 2005.
2) Keijiro Suzuki , Takeshi Sugawara and Yoji Ishida. 5 -nucleosidase and deoxycytidine kinase gene expressions in high-risk myelodysplastic syndrome (MDS). Blood 106: 959a, 2005.