岩手医科大学 先端医療研究センター 中間報告書(各テーマ用)

研究プロジェクト名

神経刺激による細胞応答と遺伝子発現制御機構の解析

研究代表者

平 英一

所属

薬理学

共同研究者

 

 

 

 

キーワード(日本語)

細胞接着

神経特異的発現

遺伝子発現

 

 

 

 

Key Words (English)

Cell adhesion

Neuron specific expression

Gene expression

 

 

 

【背景・目的】

細胞接着因子は神経突起の伸展に関与しており、細胞間の接着に加え突起伸展時の細胞外環境に対するアンテナの役割も果たしている。これまでの研究から接着機能に関しては多くのことが明らかとなってきたが、その制御機構やアンテナとしての細胞内へのシグナル伝達機構は不明な点が多い。本研究の目的はこれまでにあまり解明されていない免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着因子からの細胞内へのシグナル伝達機構を発現遺伝子の網羅的解析と細胞接着因子の発現調節機構の解明を行うことにより明らかとし、神経突起伸展機構を明らかにすることにある。

 

【方法】

 PC12細胞を用いたギセリン発現制御系の解明

⑴ギセリンはギセリン間の接着による発現増強があるので、PC12細胞の培養系を用い、ギセリン上流域の制御機構を検討する。このためにルシフェラーゼレポーター遺伝子を用い、各種ギセリン上流域欠損ミュータントの発現誘導を検討する。これにより、転写制御責任領域の決定を行う。

⑵また、そこに至る情報伝達経路を明らかとする。このために、MAP kinase 系の各酵素, A kinase, Calmodulin kinase 等の各種酵素阻害薬のギセリンmRNA の発現に及ぼす影響を定量的PCR を用いて明らかとする。

⑶反応性領域に結合する蛋白質の存在をゲルシフト法により確認し、正確な転写制御領域を決定する。

 

【結果】

ギセリン遺伝子上流域1.6kbを含むルシフェラーゼレポータープラスミドを作成し、この間にある転写制御領域についての検討を行った。その結果、ギセリン遺伝子上流域に複数存在するGCリッチ領域が転写制御に関与していることを見出した。ギセリン上流域にはTATA box等の転写制御領域は存在しないが、転写開始点直上部に存在するGCリッチ領域はCRE-反応性配列であったので、細胞内cAMP濃度のギセリン発現に対する影響を検討した。このために、forskolinによる刺激を加えたところ、14時間の刺激初期にギセリンの転写が誘導されることが明らかとなった。しかし24時間以降の長期に関してはその発現誘導の持続性は確認できなかった。またこのCRE配列の認識に関しては、完全に削除したものやミューテイションをCRE配列内部に挿入したものでは全く活性が無くなることから、完全にこの配列に発現が依存していることが明らかとなった。

また、他に存在する3個のGCリッチ配列に関してはCRE程の強い発現制御に対する影響は見られなかった。

 

【考察と展望】

細胞接着因子は細胞間の接着を制御しており、神経系などの発生時には大きくその発現が変化する。しかし、実際にはその発現を制御する機構は不明なものが多い。ギセリンは発生初期の神経系において強い発現が見られるが、その後は発現が消失し、強い発現制御を受けていることが明らかとなっている。今回、ギセリンの発現がforskolin によって誘導されることを明らかとしたことは、細胞内cAMPA kinase がギセリンの発現を制御している可能性を強く示しており、外的にギセリンの発現を制御できる事を示した。この事は、ギセリン野神経細胞における発現の増強は神経突起伸展を促進するが、ギセリンは発生期にのみ神経細胞に発現するのみで、発生終了後には消失する。しかし、これまでの実験から、ギセリンの発現は神経の損傷により増大することが明らかとなっている。今回の知見から、神経突起の再生時にさらにギセリンの発現を増強できる可能性が出てきたことにより、神経損傷時における新規神経突起の伸展を促進できる治療法の開発の可能性が見いだせた。また、神経系における細胞接着因子の発現機構の解明は発生期における器官形成機構の一端を解明するものであり、今後のさらなる研究は発生の解明にも役に立つと思われる。さらに、神経特異的遺伝子発現機構の解明は差別的組織特異的発現機構の解明にも役立つものと考えられる。

 

≪参考論文≫

(1)   Taira E., Takaha N., Taniura H., Kim C-H. and Miki N. Molecular cloning and functional expression of Gicerin, a novel cell adhesion molecule that binds to neurite outgrowth factor.  Neuron, 12, 861-872, (1994)

(2)   Taira E., Nagino T., Taniur H., Takaha N., Kim C-H., Kuo C-H., Li B-S., Higuchi H. and Miki N.  Expression and functional analysis of a novel isoform of gicerin, an immunoglobulin superfamily  cell adhesion molecule.  J. Biol. Chem., 270, 28681-28687, (1995)

(3)   Taira E, Kohama K., Tsukamoto Y., Okumura S., and Miki N. Characterization of gicerin/MUC18/CD146 in the rat nervous system. J. Cell. Physiol. 198. 377-387. 2004

 

≪発表業績≫

1.  Hiroi S, Taira E, Ogawa K, Tsukamoto Y. Neurite extension of DRG neurons by gicerin expression is enhanced by nerve growth factor. Int. J. Mol. Med. 16. 1009-14. 2005

2. Taira E, Kohama K, Tsukamoto Y, Okumura S, Miki N.    Gicerin/CD146 is involved in neurite extension of NGF-treated PC12 cells. J. Cell. Physiol. 204. 632-7. 2005

3.  Kohama K, Tsukamoto Y, Furuya M, Okamura K, Tanaka H, Miki N, Taira E.  Molecular cloning and analysis of the mouse gicerin gene. Neurochem. Int. 46. 465-70.