我が国の高齢化のスピードは急激で,「健康に老い,天寿を全うする」いわゆるsuccessful agingの達成は,医学・医療・福祉の領域はもとより,経済・社会構造の面からみても国家的最優先課題である.「健やかに老いる」ためには,再生医療やゲノム創薬学といった先端医療分野での開発研究に加え,老化の分子機構に関する基礎研究の成果をもとに,高齢期のquality of lifeを高める形での,老化制御法の開発も必要である.また,老化は遺伝的素因と環境要因によって形成される現象であり,遺伝子多型や環境要因から受けるDNA損傷が深く関与している.遺伝的素因を加味した,老化促進物質の排除による疫学的予防対策は,老年医学に関する新規先端医療の開発にも増して重要な課題である.


 岩手医科大学では,人口移動が少なく少子高齢化の進んでいる岩手県という地域特殊性を生かし,生活習慣病に関する数多くの臨床疫学研究を実践している.また,「加齢に伴う神経損傷とその修復に関する研究プロジェクト」(ハイテク・リサーチセンター整備事業)を通して,老化制御・診断法に関する多くのシーズが生まれている.当該研究課題では,これらのシーズや地域特殊性を生かし,健やかな長寿社会達成のための先導的医療技術の開発,生活習慣および遺伝子要因を背景とした老化予防研究を展開したい.

 本プロジェクトの達成は,ともすれば中央に偏りがちな高度先端医療を,地方でも実践しうる医師を育成するものであり,地域医療圏の医療水準の向上,ひいては日本国民の衛生・医療・福祉に貢献するものである.

1.老年疾患の遺伝子要因と環境要因の交絡に関する疫学研究
2.老年疾患に対する新規分子標的治療薬/細胞療法の開発に関するトランスレーショナルリサーチ
3.
患者保護の立場に立った先端医療専修医の育成カリキュラムプランの作成