研究成果はここから
FACSAriaを用いた造血幹細胞の分離採取法の確立と肝細胞への分化誘導

我々は肝炎などによって失われた肝細胞を造血幹細胞を用いて補充するための研究を行っている.造血幹細胞が肝細胞に分化可能であることは知られているが,具体的にどのような種類の造血幹細胞が効率良く肝細胞へ分化しているのか,また,その際どのような細胞内変化が必要とされているのか等については,明らかにされていない部分が多い.そこで我々は,最も効率良く肝細胞へ分化する細胞集団を明らかにし,それらの細胞が肝細胞へ分化していく過程における遺伝子やタンパクの発現変化,クロマチン構造の変化などを解析していこうと考えている.
 マウス骨髄から抽出した単核球に免疫抗体,蛍光色素を処理し,幹細胞マーカーとして知られる表現型の分布をFacsAriaを用いて解析した.その結果,ほとんどのSP細胞が分化マーカー陰性,c-kit/Sca-1陽性かつCD34陰性であることがわかった.すなわち,幹細胞と提唱されているSP細胞は他のマーカーにより幹細胞と提唱されているKSL細胞,CD34陰性細胞とほぼ同一の細胞集団であることが判明した.
 SP細胞を造血幹細胞として分取し,肝細胞へ効率良く分化していくような誘導培地の組成を探索するために,現在様々なサイトカインを含む培地を用いた分化誘導実験を行っている.また,分化/発生に重要な役割を担う分子として近年注目を集めているmiRNAを用いた分化誘導を試みている.SP細胞と肝細胞におけるmiRNAの発現をmiRNA arrayを用いて解析したところ,いくつかのmiRNASP細胞または肝細胞特異的に発現していることがわかった.これらのmiRNAはそれぞれの細胞の特性維持に重要であると考えられる.肝細胞への分化過程におけるmiRNA発現パターンの変化を解析し,in vitroの系で再現することによって,造血幹細胞を効率良く肝細胞へ分化させることが可能になると考えている.